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とある大学院生のメモ書き

米澤穂信「満願」

はじめに

3月20日に発刊の米澤穂信「満願」を読みました。感想ではあらすじや登場人物を紹介して多分にネタバレになるので、ネタバレが嫌な方は注意してください。

満願

満願

感想

この満願は、6つの短編からなるミステリ短編集です。その短編は次の6つです。

  • 夜警
  • 死人宿
  • 柘榴
  • 万灯
  • 関守
  • 満願

全体

全体の感想として、雰囲気は重いです。それは、人間の心理がとても重いからであると思います。「儚い羊たちの祝宴」ほどではないですが、全体的にダークな印象を抱きました。ミステリでありますが、フーダニットではなく、ホワイダニットではないかと思います。すなわち、なぜそんな謎が起こったのか、ということに焦点が当てられているということです。ある人間がなぜ謎・事件を起こしたのかということが説明されているのですが、その心理描写が上手で、話に引き込まれ、それと同時に物語に重み・厚みを出しています。これが米澤穂信だ、と実感させられます。一気に読んでしまいました。重い雰囲気やダークな雰囲気をこれほど醸し出せる作家はそうそういないのではないかと思います。もちろん古典部シリーズに代表される日常の謎や青春ミステリも大好きなのですが、「儚い羊たちの祝宴」、「ボトルネック」、「リカーシブル」やこの「満願」における雰囲気は米澤穂信の真骨頂と言ってもいいのではないかと考えます。

さて、それぞれについて感想を書いていきます。

夜警

ある交番の交番長と新人のお話です。どんなことが起こるかは言いませんが、「あ、これはダークな感じな作品だぞ」と読んでいて思いました。最初の方は淡々と事実が述べられているのですが、新人警官の兄が登場したあたりから、おや、これはまさか、という感じになってきます。事実ひとつひとつをよく吟味すると、自然と新人警官が発した「うまくいった」という趣旨の意味がわかってくると思います。こういう感覚がたまらないですね。

死人宿

自殺をする人が訪れたりする宿でのお話です。タイトルからして明らかにダークですね。内容もダークです。語り手である男の人が、遺書らしきものを誰が書いたかということを、推理して突き止めて自殺を阻止!というお話です。これはフーダニットですかね。

「それって普通のミステリで別にダークじゃなくね?むしろ自殺止めてるから!」

って思われるかもしれません。私も最後を読むまではそう思っていました。案外ハッピーエンドで終わるなと。しかし、米澤穂信がそんなミステリを書くわけもなく、最後にどん底に突き落とされます。もう1回読んでみると、あぁーやられた、と思いました。視野が狭くなっているということがよくわかりました。この語り手の男もおそらくそうだったのでしょう。やられた感抜群な作品です。

柘榴

はい、タイトルと登場人物からなんとなく連想したことがあたってしまった作品です。登場人物としては、ある一家、正確に言うと夫婦と娘2人であり、話としては、夫婦の離婚に際してどちらに親権が渡るのかを決める裁判(調停?)に関するものです。語り手は、母と長女です。いやー、登場人物の心理描写がすさまじいですね。特に、この長女です。どちらに親権を渡すかが決まるわけですが、なぜそうなったのか、なぜ長女はそういう行動を取ったのかということがわかります。それにしても、この父は最悪だと思いました。登場人物の心境からしたら、愛する人ということになると思いますが。「愛」が関わってくると、ここまで人はやれるのか、と思い知らされます。

万灯

舞台はバングラデシュと日本です。冒頭で語り手がある状況に陥っていることが書かれ、それに続いて、なぜそんなことになってしまったのかが書かれています。はっきりいって、救いはありません。重いです。事実からして重いです。ネタバレですが、語り手は殺人犯です。しかし、問題はそこではありません。ミステリ小説なのに。もちろん探偵役がいるわけではありません。問題は、なぜ殺人をするに至ってしまったのか、そして、冒頭にある状況になぜ陥ってしまったのかです。この語り手の歯車がどこから狂い始めていたのかを考えると、やりきれないですね。ぜひ、救いのない作品をお求めの方はこれを。

関守

舞台は、ある峠の頂上(だったかうろ覚え)にあるちっちゃなドライブウェイのような店で、話は、店主であるおばあさんと、あるライターとの会話です。ライターは都市伝説関係について調査していて、その峠で4年連続で同じ所で人が亡くなっているということを調べに行き、そこでおばあさんに話を聞くという話です。(私を含めた)読者はもちろん、都市伝説ではなくて、なにかの事件だろうと思い、その会話からなぜそのような事件が起こっているのか、さらに犯人は誰かということを考えていくわけですが、まさかという展開になっていきます。ちょっとしたホラー小説かもしれませんね。怖い。

満願

表題作です。これもホワイダニットです。ある女性がなぜ殺人をしたのか。語り手が最後におそらくこういう理由だろうと行き着くわけですが、殺人の動機がこれ?人間は自分の誇りのためには本当に容赦ないと思わされます。優しそうな女性、というのは実はその女性の本質ではないことが段々とわかってきます。

まとめ

素晴らしい作品です。それぞれの作品ごとに、何か得体のしれない力で引っ張られます。人間の業かもしれません。

個人的には「死人宿」、「柘榴」、「関守」は特にお気に入りです。これから何回も読み返すことになりそうです。

また、素晴らしい作品を期待しています。